「仲介は頼まれ仕事」と思うべし

売主でもなく買主でもない

不動産仲介業に携わり、あと何年かで40年になるところです。

そんな私が、改めて「仲介の仕事って?」を振り返り、その仕事へのスタンスを記載します。

 

当たり前ですが、「仲介」は「売主」でもなければ「買主」でもありません。

従いまして、「はい、その条件なら売ります!」と決断することもできませんし、

「そんな話なら断ります!」と断言することもできません。

基本、売主の意向、買主の意向を確認し、相手側に伝えるしかありません。

 

また、「売主」でも「買主」でもないということは、何を意味するのか? ですが、

「仲介者」の立場とは、究極のところ、

「別に売れなくても自分自身は困らない」し、「買えなくても自分自身は困らない」立場です。

 

もちろん、仲介物件が売れなかったり買えなかったりすると、仲介手数料が入らず、

フルコミッションに近い給与体系ですと、稼ぎがなくなるという意味においては困るかもしれません。

ある程度の固定給が保証されている場合でも、「会社のノルマ」や「営業目標」に苦しむこともありますね。

 

でも、法律的にも道徳的にも「無理をした仲介」をやってしまいますと、必ず後悔します。

それは、積もり積もって心身に異常を発生させたり、貴方を劣悪な人間に変貌させます。

結果が出ず、悔しいと思う気持ちはわかりますが、自分を卑下する必要はサラサラありませんし、

そんな考え方をしてはいけません。

売主や買主のため、会社や店舗のため、貴方の人間性を削ってはいけません。

「代理とは違う」ことを理解しないと苦しむ

「仲介」は売主の売却希望条件を達成すべく仕事をし、買主の購入条件を達成すべく仕事をします。

その点は「代理」に近い仕事と思えそうですが、違います。

「代理」は、「売主に代わって売却や購入の判断ができる」点において、「ほぼ売主(買主)」です。

極端に言えば、「全権委任された売主であり買主」です。

子供の法定代理人として親が代理権を持つことをイメージしていただくとわかりやすいでしょうか・・

従いまして、「自分に決定権がない仲介」とは全く異なります。

 

仲介営業マンが苦しむ時って、こんなケースでしょうか?

「売主が希望する売却条件で販売活動しているが、なかなか売れなくて売主に申し訳ない」とか

「買主の意向を受けて購入申込書を入れた。しかし、うまく購入できず、買主に申し訳ない」とか・・

そんな気持ちになる仲介営業マンは、素晴らしい心の持ち主だと思います。

 

しかし、「仲介」という仕事は、こんな風に考えると気が楽になります。(売却の場合)

 

①売主は「どうしたら売れるのか?」という「実験」をするよう依頼してきた。

②実際に実験をするのは、不動産売却に不慣れな「売主」ではなく、「仲介営業マン」である。

③その実験は、多岐にわたる要因により、うまく行くこともあれば、失敗することもある。

④「まずは売出価格〇〇万円で1か月間、売却営業をする」という実験を「仲介営業マン」が行う。

⑤その後、色々な実験をした結果を、都度、売主に報告する。

⑥どう実験してもうまく行かない場合、その原因の多くは「売出価格」にある。

⑦実験を成功させるためには、その原因である「売出価格」を変更する必要性を実験結果として報告する。

 常に「試行錯誤しながら実験し、その結果を報告する業務」と思えば気が楽になります。

仲介は「頼まれたことをやる」に過ぎない

仲介は「無理な依頼事」を引き受ける必要はない

仲介営業マンは、不動産知識を含め、持てるすべての知識と経験をもって「頼まれごと」に向き合います。

一方、「仲介」は「成功報酬」ですから、成約しなければ「報酬」はもらえません。

どう自分が頑張っても成約するとは思えない依頼であれば、断るしかありません。

「仲介」は、売主・買主の「無理難題を叶える人」ではありませんし、そう思って仕事をすると苦しみます。

 

「お客様のために」という気持ちはもちろん大事ですが、

「貴方の希望通りに仕事しましたけど、無理でした。」と笑顔でサラッと言える気持ちも大事です。

 

だって、貴方(営業マン)が売主や買主だったら、そんな無理な条件での売却や購入は依頼しませんでしょ?

仲介手数料は売主・買主の「我儘を達成したとき」の報酬と考えてはいけません。

売主や買主の希望に沿って色々と「実験」したら「うまくいった」ということに対する報酬です。

 

もちろん、知識や経験で「実験が上手か下手か」はあると思います。

しかし、大事な心の持ちようは、「依頼されたから実験をしているに過ぎない」という気持ちです。

 

ただ、「実験」は本当に真剣に、そして一生懸命にやった方が良いです。

真剣に一生懸命やった実験の積み重ねが、今後の実験の成功確率を上げます。

 

何度も言いますが、貴方(仲介営業マン)は売主でも買主でも代理でもありません。

売主や買主の依頼に基づいて「しっかりと実験をする」ことが仕事です。